技を極める|ヴァンクリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸

2017年4月29日(土)〜8月6日(日) 京都国立近代美術館(岡崎公園内)

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中村江里子さん×松原龍一 対談

ハイジュエリーの本場パリに生活の拠点を移されてから日本の工芸作品にも興味を持ち始めたという中村江里子さん。ハイジュエリーと工芸のどちらにも造詣が深い中村さんと松原学芸員に本展についてお話しいただきました。

本展の出品作品の中には、人間国宝の森口邦彦先生の作品もあるのですが、中村さんはパリで森口先生にお会いされたとか。

そうなんです!2016年にパリ日本文化会館で開催された「森口邦彦−隠された秩序」展を観にうかがいまして、そこでたまたま森口先生の奥さまに声をかけていただきました。その流れで森口先生直々に作品を解説していただき、作品について更に理解する機会に恵まれました。

森口邦彦 《友禅着物 雪舞》(染織)2016年 個人蔵  撮影:四方邦熙

工芸作品をご覧になるのはお好きなんですか?

はい、大好きです。パリに住むようになってからは日本の兜が大好きになりました。ただ、まだまだ知らないことも多くて…。
そもそも工芸ってどこからどこまでのことを指すのでしょうか?

工芸という言葉が日本で定着するのは明治以降です。それまでは、職人さんの技術によって、例えば絵師、仏師、蒔絵師のように呼ばれていました。それが明治になって海外の考え方が流入してきて、概念で一括して括ろうとしたのです。そしてそれらを指し示す工芸という言葉が作られました。

では比較的新しい言葉なんですね。

そうなんです。ですので明治以前の考え方ですと森口先生は染もの師です。森口先生というと着物の作品がパッと思い浮かぶと思うのですが、着物ではない作品もありますし、現在使われている三越のショッピングバッグのデザインは、森口先生がされています。

西洋の考え方が流入してきて工芸という言葉ができたということですが、パリでは日本の工芸作品を紹介するかなりモダンな工芸展も開かれたりして今では欧米の方も日本の工芸にどんどん関心を持ち始めているように感じます。欧米と日本の工芸の違いって何でしょうか?

工芸は日常生活を抜きにしては考えられないんですね。基本的に欧米は石や鉄の建物で、日本は木造というように生活様式がそれぞれの場所で違いますので、作り出されるモノも必然的に違ってきます。日本もだんだん木造の和室や床間がなくなってきていますが。

なるほど。工芸の素晴らしさって身につけたり、生活の中で実際に使ったりできる点ですものね。ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーも鑑賞するためではなくて、これをオーダーした方がいらっしゃる。

《ブルーバード クリップ》 1963年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション Patrick Gries © Van Cleef & Arpels

そうなんです。本展を開催するにあたり、ヴァン クリーフ&アーペルの工房へも何度か訪れたのですが、工房のマイスターは自分たちが作ったジュエリーが完成するのは、お客さまがジュエリーを身につけて、さらにそれが他人の目に触れた時だ、とおしゃっていました。

私も以前取材でパリのヴァンドーム広場近くにあるヴァン クリーフ&アーペルの工房にお邪魔したことがあります。ものすごい厳重な警備がされていますよね。

はい、宝石を扱っているからというだけではなくて、職人さんたちを守るためでもあるんですよね。

私が取材した時は、テレビにお顔が映らないようにということでした。なんでも誘拐される恐れがあるとかで。

通勤経路も毎月変えて。それだけ貴重な人材ということですね。ヴァン クリーフ&アーペルのニコラ・ボスCEOは職人さんをすごく大事にされていて、だいたいひとつの工程につき、シニア・ミドル・ヤングと3人体制にして、技を伝承していけるようにしておられるので素晴らしいです。ニコラCEOは森口先生の工房でも2時間ほどずーっと黙って作業をご覧になっておられたようですよ(笑)。

今回の展覧会で展示される作品は松原さんおひとりで選ばれたのですか?

工芸作品についてはそうですね。ジュエリーはヴァン クリーフ&アーペルの方の意見も聞きながら選びました。

どういうポイントで作品を選ばれるのですか?

今回は展覧会名でもある 技を極める という大きなテーマがありますので、基本的に極められた技の先に出来あがった素晴らしい作品を選んでいます。日本の工芸作品とフランスのジュエリーというと見た目は全く違いますが、どちらも、ものすごい技術で作られているので、その技の共通性を本展では見ていただきたいですね。 ヴァン クリーフ&アーペルも今まで世界各国で展覧会を開催していますが、一番重要な技をテーマにした展覧会は初めてだそうです。

ヴァン クリーフ&アーペルの工房でミステリーセッティングという技を見せていただきましたが、あれは本当にすごいです。全部違う大きさの宝石をひとつづつ型に嵌めていくのですよね。見ていると職人さんはいとも簡単に作業をしているように思えてくるんですけれども、微妙なカーブに合わせて大きさの違う石を選んでいくのはまさに極められた技でした。

ヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリーは全て1点ものですからね。そういう意味でも日本の工芸作品との共通性があると思います。文化の違いを見せるのはわりと簡単だと思うのですが、本展では是非、技の共通性やハイジュエリーと日本の工芸の親和性を見ていただきたいです。 例えば、この(写真)服部峻昇先生の香合は、タイの玉虫の羽根を四角く切って漆でつけている金蒔絵なのですが…

服部峻昇《玉虫香合 桐文》(漆芸)2014年 ヴァン クリーフ&アーペル蔵、 《二枚の葉のクリップ》1967年 ヴァン クリーフ&アーペル コレクション  撮影:江崎義一

これはまさにミステリーセッティングですね! お話をうかがっていると全部の作品を解説つきで見たくなります。

本展では関連イベントとしてレクチャーやワークショップを開催しますので、ご興味のある方は是非ご参加ください。

私も毎年夏は日本にいるので、時間を作って京都まで観にうかがう予定です!

中村江里子さん プロフィール

元フジテレビジョンアナウンサー。本名、エリコ・バルト。立教大学経済学部経済学科卒業。 実家は創業130年を越す銀座の老舗楽器店「十字屋」(株式会社銀座十字屋)。 大学卒業後の1991年、アナウンサーとしてフジテレビに入社、1999年3月、同社を退社。 私生活では2001年にフランス人のシャルル エドワード バルト氏と結婚し、生活の拠点をパリに移す。 妻であり、3児の母でもある。現在は、パリと東京を行き来しながら、テレビや雑誌、講演会、イベントなどの仕事を続ける。著書も多数。
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